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「BtoB広告における最適なコミュニケーション方法とは」(前編)

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日本の広告費が2年連続で前年割れとなり、新聞、テレビ広告費は5年連続で前年実績を下回った。今、大きな変化の中にある広告業界において、従来型と現在のBtoB広告では、どのような違いがあるのだろうか。日本産業広告協会 前専務理事 大道寺秀一氏と株式会社中外取締役社長 遠山勝が現状と将来のBtoB広告について語りあった。


■コミュニケーション活動の変化


――現在のBtoB企業の広告活動について、どのように感じていらっしゃいますか。


大道寺氏(以下、敬称略)
業界が混迷する中、広告とは一体何かと問いかけられているのではないでしょうか。広告活動の大きな変化の理由には、もちろんインターネット、Webの出現があります。メディアの中心が大きく動いたことで、基本4媒体(いわゆる4マス媒体)だったものが、プロモーションやCSR、社会貢献活動、環境レポート等と、広告活動は多岐に亘り複雑化しています。特筆すべきは、インナーコミュニケーションなどの出現です。今あらゆるものがメディアとなることで、広告は、コミュニケーション活動へと捉え直されています。


遠山
ここ2年程、BtoB企業の広告活動においてもインターネットメディアが中心になってきました。それにより、広告活動にインタラクティブ性が求められ、お互いがコミュニケーションし合うという意味でも、まずWebありきで、それにグラフィックメディアやイベント、プロモーションがプラスされるといった状態です。例えばイベントでも、ランディングページ(イベント開催告知ページ)への誘引やお礼メールを出すシステム、またWebからPRしていく仕組みが望まれていますね。新聞や雑誌の記事・広告もそうなのですが、産業広告協会が立ち上がった当時と比べてメディアのあり方自体が大きく変わってきているように感じています。また先日、当社でエンジニアに対して「どのメディアから製品情報を入手しているか」を調査したところ、「メーカーのWebサイト」と回答された方が9割もいるという結果が出ました。もちろん、専門雑誌系の情報サイトやメールニュース、イベントなども強かったのですが。


大道寺
インターネットの普及によって、コミュニケーションの到達度が迅速かつ分かりやすくなっていますね。Webは人が介在しないために効率も高く、今の社会にマッチしています。到達度が明確に分かることで、広告効果を数字で把握することができる。そこを広告の基点とすることが、今や当たり前の時代になりました。ネットなくして、コミュニケーションなしと言いますか。


■ヒューマンリレーション~人と人の結びつきが重要~


遠山
エンジニアが製品情報を入手するのは、インターネットからです。ただ、製品の採用を決定するのはメーカーの営業担当から、という比率がとても高くかつメーカー特約店の担当者のご意見も強い。意思決定はやはり「人」ということでしょう。


大道寺
情報の発信や入手はネット経由でも、人の介在という点から人材はこれからさらに大切になるでしょうから。


遠山
会社の意思を、社員といかに共有していくかが課題であると感じています。インナーコミュニケーション強化に向けた教育が、今各社ではじめられていますね。


大道寺
企業内の意思統一を図るには、人材を再教育しなくてはいけません。雇用形態が変化している今、もう一度顧客に対するホスピタリティを高めていくという視点から再教育が必要です。意思決定を人間が行うということは、担当営業がいかに重要かということですから、各社ともコミュニケーション活動として「教育」をプログラムしているようですね。
先日、私どもの「産業広告」でも対談させていただいたのですが、モノが売れない時代に、いかに営業を育成するか、意思を統一して顧客に対するか、という話になりました。BtoCの世界ではマクドナルドが徹底して行っていますが、それをBtoBの会社でもやらなければコミュニケーション活動を円滑に進められないと。広告会社がメディアを売って営業活動していたのが今までだとするならば、今後の広告会社は、クライアントの経営の根幹に入ってその意思を理解した上で、側近で提案するコンサルとなれたら強いのではないでしょうか。


■「経営者の思い」を広告にし、ブランドを確立する


――デジタルを介し、PRをも含めたクロスコミュニケーションへの変化を感じておられるようですが、最近の印象深かったプロモーションやブランディング事例はありますか。


遠山
複数の広告代理店と組んで広告宣伝活動を行っていた、外資系企業がありました。広告クリエイティブやメディアを各代理店で分けて展開していたために訴求点が分散され、その企業の持つストロングポイントまで表現できなかったようです。そうなると経営者の思いを顧客やエンドユーザーに届けることが、非常に難しくなってきますね。その広告活動を中外が一本化し、事業や製品内容を熟知することでコンセプトを構築、クリエイティブ/メディアへと展開していきました。一つのコンセプトをさまざまな手法で訴求し、認知度が向上したことで、社長の思いを顧客やエンドユーザーに届けることができたと実感しています。また、コミュニケーションを通じてメッセージを浸透させるには、クロスコミュニケーションももちろん大切なのですが、前提として事業・製品知識の蓄積やイメージの統一を図ることも重要です。また広告活動の効果を数値化することで、成功を実証することもできたブランディング活動でした。


大道寺
今のお話を聞いて、三木プーリ(株)の新聞広告に非常に近いものを感じました。毎年1月の始業の日に干支を使って、日刊工業新聞に出稿されています。企業が広告に対して非常に熱心であり、表現に決してブレがありません。2代目の社長が先代のやってきたことを経営理念として取り入れ、それを広告という形で継続して発信しているのです。製品広告も、社長自ら企画から参加して考えていらっしゃるそうで、非常におもしろい。製品に対する社長の思いをメッセージとして伝えることが大切だということで、厳しい時代でも広告を出稿され続けています。また社内には、日本産業広告賞を受賞した広告が美術品のように展示してありました。インナーに対しても、顧客に対しても常に製品に対する思いを発信し、アピールできているのではないでしょうか。


遠山
三木プーリ(株)の社長自らが広告活動に関与されるだけでブランドが確立されますね。先代から引き継いだ、強い思いをお持ちでしょうから。もちろん表現に対しても厳しく、デザインやコピーも含めて他社より優れた広告を目指されています。



大道寺
ブランド哲学ができているところが重要なのでしょう。広告の醍醐味でもありますね。


遠山
いまの時代、品質や性能では大きな差が出にくくなっています。競争力を高める上で、研究開発費や設備投資と同じレベルで「文化的投資としての広告宣伝」が重要になってくる、と思います。カスタマー(顧客)を中心としたステークホルダーの信頼と賛同を得るための促進活動です。消費低迷と競争激化が続く日本のマーケットでも当然必要ですが、日本企業のブランドパワーがない、あるいはブランドパワーが低下している海外市場では特に必要な投資です。次世代の人材獲得にもつながることです。常に元気を見せて好況不況にブレることなく、長期的かつ継続的な経営戦略として、優れた広告宣伝を積極的・効果的に展開するわけです。オーナー系経営者の企業に、そんな文化が根付いているケースをよく見ます。


大道寺
同じことを三木社長もおっしゃっていました。ブレるというのは良くない、広告も経営もブレないことがブランディングであるのだと。景気が悪くても、やめてはいけない広告もある、とおっしゃっていました。経営者の立場で広告デザインまでやるというのは、哲学がないとできないことでしょうと。


■クライアントの「顧客」の気持ちを理解する


大道寺
広告会社のあり方としては、クライアントの経営の根幹だけでなく、同時にカスタマー(顧客)にも近いところで、コンサルタントになるべきだと思っています。以前は広告会社というとアウトソーシング的な役割を担う立場でしたが、今後は社長の考えや、カスタマーを理解できる立場にいる必要があるのではないでしょうか。クライアント・カスタマーの望みをいち早く探り、カスタマーに届くようにクライアントへ伝えていく、という考え方はとても大切だと思います。


遠山
中外では「カスタマーズ・カスタマー」、つまりクライアントの顧客の気持ちを理解し、把握することを大切にする教育が受け継がれています。


大道寺
重要な視点ですね。そういう意味でも私が最近感心した広告事例は、2008年に「日本BtoB広告賞 経済産業大臣賞」を受賞した、三菱電機(株)の「三菱電機キーテクノロジーサイト」です。
Webサイトで初めて、日本BtoB広告賞のグランプリを取ったもので、もちろん新聞広告やテレビCMへの展開もありました。三菱電機(株)はBtoBの売り上げが圧倒的に高い企業です。カスタマーの望みを考え、事業部も参加して全製品の詳細を洗い出してWebサイトにアップし、1製品ずつピックアップしてそれぞれのメッセージを制作し、関連するメディアをクロスして展開しました。もう一つの事例は(株)堀場製作所が2009年に同じ経済産業大臣賞を受賞した販促ポスターです。広告の基本に立ち戻り、極めて景況が悪く予算がないところでも強い印象を残す努力をされた事例です。


遠山
最初の話ともつながるのですが、Webを中心とした広告展開が主流になりつつも、やはりカスタマーを理解した広告づくりが優れた広告のポイントとなるようですね。


大道寺
はい。また、メッセージを外部だけでなくインナーコミュニケーションとしてもブレずに発信することが大切ですね。その点、Webは紙媒体の手法を活かしつつも、Webとしてここ数年で蓄積したノウハウを確立しようとしている段階で、今後さらに新しいことが期待できるのかもしれません(後編に続く)。


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