5分でわかるトレンドワード 量子エラー訂正
要約
● エラー訂正とは?● 従来のエラー訂正が量子の世界では使えない理由
● 量子エラー訂正の方法
● まとめ
量子コンピューティングに不可欠な量子エラー訂正
計算速度の飛躍的向上や高セキュリティな暗号技術など、量子コンピュータの未来が広く語られています。そのなかで、量子ビットの数を増やす多ビット化はしばしば話題になりますが、実用に向けてはそれだけでは不十分です。量子の世界ではわずかなノイズや環境の影響で情報が簡単に壊れてしまいます。そのためビット数が増えても、エラーが多ければそもそも計算結果が信用できません。エラーを減らすことによって計算や通信を高信頼性にするキーテクノロジーが、今回ご紹介する量子エラー訂正(量子誤り訂正)です。
エラー訂正とは?
まず一般的な意味での「エラー訂正」について解説します。私たちが普段使っているコンピュータや通信の世界では、データの一部が壊れたり途中で変わったりすることがしばしば起こります(例:電波のノイズで「0」が「1」に化けてしまうなど)。エラー訂正は、こうした誤りを検知し、正しいデータに戻してあげる技術です。
一般的なコンピュータやデジタル通信のエラー訂正の方法を簡単に説明します。「1」という情報を送りたい時「1」を複数回、例えば3回送ります。通信中に3つのうちの1つが「0」に化けたとしても、残りの2つが「1」なので、多数決によって「1」と判定できます。実際のコンピュータや通信ではより効率的で高度な方式が使われますが、基本となるのは「元の情報に冗長性を持たせ、エラーが起きても元の情報に復元できるようにする」という考え方です。
従来のエラー訂正が量子の世界では使えない理由
ところがこの従来方法は、量子コンピュータでは使えません。理由は、量子ならではの性質にあります。
量子コンピュータは、「量子ビット(qubit)」という単位で情報を扱います。量子ビットは「0」と「1」を同時に持つ「重ね合わせ」の状態になれます。これが量子コンピュータの強みで、大量の情報を一度に処理できる源です。
しかし、量子ビットの重ね合わせには不思議な性質があります。それは、一度測定すると重ね合わせが崩壊し、0か1のどちらかに確定した状態へ変わり、元の重ね合わせの状態、つまり情報が失われてしまうという性質です。
そのため、計算や処理の途中で量子ビットの状態を直接測定して、エラーが発生したかどうかを確認することができないのです。
さらに量子ビットでは「冗長性を持たせるためにデータを複数コピーして多数決を取る」という従来のエラー訂正方法も使うことができません。重ね合わせ状態の量子情報を完全に同じ状態に複製することは物理法則上不可能であることが、1982年に量子力学の「量子複製不可能定理」として証明されているからです。 また、量子の世界ではエラーの種類も独特です。単なる0と1の入れ替わりだけでなく、位相(波のずれ)が変わるエラーも起こります。環境の熱や電磁波、装置の不完全さなど、わずかな外乱で状態が乱れてしまう「デコヒーレンス」も深刻です。こうした量子ならではの「壊れやすさ」に対応した、特別なエラー訂正が必要なのです。
量子エラー訂正の方法
では実際の量子エラー訂正はどう行うのでしょうか。ポイントは次の2つです。
①コピーをしない
コピーはしませんが、その代わりに「符号化」という技術を使い、量子ビットが持つ情報を別の複数の量子ビットに分散させます。
②元の情報を直接測定しない
量子情報そのものを直接測定するのではなく、「エラー症候(エラーシンドローム)」と呼ばれるエラーの兆候を測定して、エラーの種類や位置を推定します。
量子エラー訂正も「冗長性を利用して情報を守る」という発想自体は従来の技術と共通しており、量子情報の性質に合わせて、その冗長性の持たせ方や検査方法を工夫しています。
まとめ
量子コンピュータの進化と実用化に向けて、多ビット化(量子ビット数の増加)はよく話題に上がりますが、エラー訂正技術が支えてこそ長い計算や複雑なアルゴリズムを安定して実行できるようになります。量子コンピューティングの進化は「ビット数を増やす」ことと「エラーを正しく直す」ことの両輪で進みます。