5分でわかるトレンドワード チップレット
要約
● 微細化の限界を超える半導体の新しい形● 別々のチップを組み合わせ、1つの半導体として動作させる
● チップレットを支える2.5D実装とインターポーザー
● まとめ
微細化の限界を超える半導体の新しい形
AI、データセンター、スーパーコンピューターなどの進展に伴い、半導体にはこれまで以上の高性能化が求められています。従来、半導体の性能向上を支えてきたのは主に「微細化」でした。しかし近年、微細化は限界に近づいていると言われています。最先端の製造プロセスには巨額の設備投資が必要で、製造コストは急速に上昇しています。また、回路を大規模化すれば欠陥が生じる可能性も高まり、歩留まりつまり良品率が低下します。わずかな欠陥でもチップ全体が使えなくなるため、大型チップを作ることはコスト面で大きなリスクを伴っています。
さらに半導体のすべての機能が最先端プロセスを必要としているわけではありません。CPUやGPUの中枢部分には3nmや2nmといった最先端プロセスが有効ですが、入出力回路やメモリー制御回路などは、最先端ではない成熟した製造プロセスでも十分な場合があります。それにもかかわらず従来のモノリシックな設計では、これらを1つの大きなチップ上にまとめて作る必要がありました。
こうした課題を解決する技術として注目されているのが、「チップレット」です。
別々のチップを組み合わせ、1つの半導体として動作させる
チップレットとは、機能ごとに複数の小さなチップを1つのパッケージ内で高密度に接続する技術です。
従来は、CPUコア、GPUコア、メモリー、制御回路、入出力回路などを1枚の大きなシリコンチップに集積する「モノリシック」と呼ばれる設計が主流でした。これに対してチップレットでは、それぞれの機能を小さなチップとして個別に製造し、あとから1つのパッケージ内で組み合わせます。完成した製品は外部から見ると1つの半導体ですが、内部では複数のチップが連携して動作しています。
チップレットの「レット(let)」は、英語の接尾語で、「小さなもの」を表します。bookletが「小冊子」を意味するのと同じように、chipletは「小さなチップ」を意味します。
チップレットが注目される理由は、大きく4つあります。
1. 製造コストを抑えやすい
大きなチップは、面積が広いぶん欠陥の影響を受けやすくなります。1カ所でも不良があれば、チップ全体を廃棄しなければならない場合があります。
一方、チップレットでは機能ごとに小さなチップとして製造するため、1つあたりのチップ面積を小さくできます。小さなチップは良品として製造できる確率が高く、歩留まりの改善につながります。仮に一部のチップレットに不良があっても、その部分だけを選別し直せるため、大型チップを丸ごと無駄にするリスクを減らせます。
2. 機能ごとに最適な製造プロセスを選べる
半導体の中には、最先端プロセスが必要な部分と、成熟したプロセスで十分な部分があります。演算性能を左右するCPUやGPUのコア部分には微細なプロセスが有効ですが、入出力回路やアナログ回路などは必ずしも最先端である必要はありません。
チップレットでは、機能ごとに異なる製造プロセスを使い分けることができます。高性能が求められる部分には最先端プロセスを使い、そうでない部分にはコストの安い成熟したプロセスを使うことで、性能とコストのバランスを取りやすくなります。
3. 開発期間を短縮できる
チップレットは、すでに設計済みの小さなチップを別の製品にも再利用しやすいという特徴があります。たとえば、CPUコアのチップレットを複数の製品ラインで共通利用し、製品ごとに数や組み合わせを変えることができます。ゼロからすべてを設計し直すのではなく、既存の部品を組み合わせることで、開発期間の短縮や設計コストの削減につながります。
4. AIやHPC(High Performance Computing)向けの高性能化に適している
生成AIや大規模データセンター、スーパーコンピューターでは、膨大な演算能力と高速なデータ転送が必要になります。特にAI向けGPUでは、演算チップと大容量メモリーの間で大量のデータを低遅延・低消費電力でやり取りする必要があります。
チップレットを使えば、複数の演算チップやメモリー関連チップを1つのパッケージ内に高密度に配置できます。必要に応じて演算チップの数を増やすこともできるため、高性能化への拡張性が高い点も大きな利点です。
チップレットを支える2.5D実装とインターポーザー
チップレットを実現するうえで重要になるのが、チップ同士をどのように高速・高密度に接続するかという点です。
通常、基板上でチップ同士を接続する場合、信号はパッケージ→基板配線→別のパッケージを経由します。この方法では配線が長くなり、通信速度が上がりにくく、消費電力も増えます。AIのように演算チップとメモリーの間で大量のデータをやり取りする用途では、大きな制約になります。
そこで使われるのが、2.5D実装やシリコンインターポーザーです。
2.5D実装とは、複数のチップを平面上に並べ、その下に高密度な中継基板であるインターポーザーを配置して接続する技術です。チップ自体は縦方向に積み重ねるわけではありませんが、通常のプリント基板よりもはるかに細かい配線で接続できるため、「2Dと3Dの中間」という意味で2.5Dと呼ばれます。
シリコンインターポーザーは、半導体プロセスを使って作られるため、通常の基板よりもはるかに細い配線を形成できます。これにより、チップ間で大量のデータを高速にやり取りできるようになります。AI向けGPUとHBM(広帯域メモリー)の接続などでは、このような技術が重要な役割を果たしています。
2.5D実装の概念

まとめ
チップレットは、複数の小さなチップを組み合わせて1つの高度な半導体を構成する新しい設計・実装技術です。半導体の微細化が限界に近づき、製造コストが上昇する中で、性能向上とコスト抑制を両立する有力な解決策として注目されています。その実現には、2.5D実装やシリコンインターポーザーなどの先端パッケージ技術が欠かせません。
AI、データセンター、スーパーコンピューターなどに使われる高性能半導体の分野では、チップレットは今後ますます重要な技術になると考えられます。半導体はこれまでの「微細化で性能を上げる」アプローチに加え、「複数のチップをどう組み合わせるか」という新しい段階に入りつつあります。チップレットはその変化を象徴するキーワードといえるでしょう。