5分でわかるトレンドワード フィジカルAI
要約
●AIの普及と新たな市場●フィジカルAIとは
●従来のAI制御との違い
●フィジカルAIのマーケット
●世界で、そして国内で盛り上がるフィジカルAI
●まとめ
AIの普及と新たな市場
生成AIはここ数年で急速に社会に浸透してきましたが、次の成長分野として急速に注目を集めているのが「フィジカルAI」です。これまでAIのフィールドはスマホやクラウドといったデジタル空間が活躍の中心でしたが、フィジカルAIは現実世界で「モノ」や「環境」に物理的に働きかけるものです。
フィジカルAIを提唱する代表的な人物として、NVIDIAのCEOであるジェンスン・ファン氏が挙げられます。2024年~2025年のさまざまなイベントの基調講演で「フィジカルAI」を提唱したことでロボット産業や自動車産業から大きな注目を集めています。
フィジカルAIとは
生成AIはテキストや画像といったデジタルデータを生成しますが、これに対してフィジカルAIは現実の空間で物理的なアクションを生み出すのが大きな違いです。
「AIによる制御」という概念は昔から存在しており、産業ロボット、FA、自動制御、画像認識検査など多くの分野ですでに実用化されてきました。
では従来のAI制御とフィジカルAIの違いは何かと言うと、それは「事前に決められた制限のある世界で正確に動くAI」から、「未知に変化する現実世界を理解し、それに自律的に適応するAI」の違いです。
従来のAI制御との違い
従来のAIによる制御は、動作手順や条件分岐などを人が事前に細かく設計し、固定環境で正確に動かすことを前提としていました。つまり制御の主体はあくまで人間でした。
一方、フィジカルAIでは、環境認識、行動計画、学習による最適化などの判断をAI自身が担い、目的から自律的に最適行動を「生成」することを志向しています。たとえば画像認識であれば、照明変化や物体のばらつき、人の動きといった曖昧で複雑で未知な出来事にも対応し、意味の理解や空間把握、意図推定など高度な認識が可能になります。さらに共通のAIモデルを複数の機器に搭載して能力を進化させる仕組みが考えられており、「人が制御する機械」から「自律的に判断・進化する知能システム」へと本質的な転換が進んでいます。
このような進化が可能になった背景には、大規模AIモデルの登場、強化学習やシミュレーション学習の進化、デジタルツイン環境の整備、さらにはGPU計算性能の向上、そして実際の物理的動作の制御を行うロボットなどの制御ソフトウエアの高度化などがあります。これらが同時に、飛躍的な進化を遂げてきたことでフィジカルAIが可能になりました。
フィジカルAIのマーケット
フィジカルAIにより、ロボットや自動運転車などのマシンはセンサーやカメラなどで現実世界を認識、理解、解析、判断したうえで高度な行動ができるようになります。
自動運転車は最も期待されているフィジカルAIの用途です。歩行者の急な飛び出しの「意図」を推測したり、悪天候時の複雑な路面状況を物理法則に基づいて判断したりするなど、無人運転の実現やADASをより高度化する能力がフィジカルAI技術によって実現することが期待されています。
製造業や物流もフィジカルAIの大きな市場です。フィジカルAIを搭載したロボットや製造装置が部品の組み立て、溶接、検査、ピッキング、搬送などの工程をリアルタイムで状況を判断して最適な動作を行います。人間にしかできなかった細かな作業もフィジカルAIに置き換えることができるようになると期待されています。
世界で、そして国内で盛り上がるフィジカルAI
フィジカルAIは国内外の展示会や技術イベントでも大きな注目を集めています。「2025国際ロボット展」や「CES 2026」では、ヒューマノイドをはじめとするフィジカルAIを応用した展示やデモが多数出展されて話題を集めました。米国や中国を中心に、フィジカルAIやヒューマノイド(人型ロボット)への投資や技術開発が急速に進み、国際的な競争が大きな注目を集めています。
政府は2025年6月に「AI推進法」を施行し、フィジカルAIを戦略的技術の中核と位置づけています。その基本方針として「人工知能基本計画」にまとめています。
出典:内閣府:人工知能基本計画
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html
2025年12月の人工知能(AI)戦略本部において、高市首相はフィジカルAIの開発に国が本格的に取り組み、社会実装を目指すことを掲げており、2026年1月の年頭会見でもフィジカルAIを取り上げ、製造業や医療、物流など現場データを活用した技術を強化する方針を打ち出しています。
まとめ
生成AIやAIエージェントがあらゆる分野に大きな革新をもたらしたのと同様に、フィジカルAIはそれを現実の行動へと結びつけ、製造・物流・モビリティ・医療など幅広い分野における革新をもたらそうとしています。そして将来的には、家庭や街中にフィジカルAIが浸透し、家事や勉強や介護といった日常的な動作をサポートする存在になっていくはずです。